つまり、ハーマンミラーのアーカイブで発掘された写真が私たちに思い出させてくれたように、イームズ夫妻が箱自体を改良したことは全く驚きではありません。質素な段ボール箱は、子供たちにとってレースカーやロボット、家など、自分達のためのスペースを作るチャンスなのです。そしてイームズ夫妻は、運送用コンテナーから、イームズストレージユニット(ESU)を1951年に生み出しました。
「カラフルな赤と黒のデザインと、特徴的なハーマンミラーの「M」で印刷された頑丈な段ボール箱は、木の細長い薄板で補強されており、家具を取り出した後は、底の木製スキッドを再び釘で固定して、子供達が喜ぶプレイハウスになりました」とプレスリリースの草稿に書いてあります。別のパンフレットには「プレイハウスの作り方」の手順が書かれていますが、点線は入口、窓、そして粋なオーニングにぴったりと書いてあり、見れば一目瞭然であったでしょう。
イームズ夫妻は、大人と子どもの楽しみを組み合わせて、無駄をなくし、つまらない配送過程をワクワクするイベントへと一気に変えたのです。上向き矢印と、アーヴィン・ハーパーがハーマンミラーのためにデザインした「M」というロゴの深いVの部分は、ミニチュアのタウンハウスや高層ビルなど上向きに拡大させることができるという可能性を連想させ、子どもや親はもっと家具が必要になったかもしれません。
イームズストレージユニット(ESU)自体も、大人にとっての解体可能なおもちゃでした。穴のあいたスチールの押出成形と斜めの筋交いで作られており、低めのサイドボードとしても、高めの本棚としても設定できますした。またプライウッドの引き出しやドア、穴あきのメタルかエナメル塗装のメゾナイト製のパネルを選ぶことで、インテリアに応じてカスタマイズすることが可能でした。さらに分解して配置しなおしたり、追加したり、モジュラーボックス形式の家具を、まるでおもちゃのように取り扱うことができます。
子供用のおもちゃを大人がデザインして、イームズ夫妻は、箱からインスピレーションをたくさん得ました。1951年にTigrett Enterprisesにより製造されたThe Toyは、子供たちにとって、カートンシティのものより、よりカラフルで柔軟性がある組立式の構造を作るチャンスでした。イームズ夫妻は当初、1940年代後半に寸劇と写真撮影に使用されていたものを基にした、大きくて鮮やかな紙と段ボールで出来た動物マスクの製造について、Tigrettに連絡しました。このメンフィス拠点の会社は、おもちゃの水飲み鳥の販売で富を築いた企業家のジョン・バートン・ティグレットにより経営されており、特許が取得できる商品を探している可能性があったのです。マスクは、試作品から完成品にこぎつけることは出来ませんでしたが、よりシンプルで、より幾何学的なおもちゃが完成しました。
The Toyは、薄い木製ダボ、モール、そして緑、黄、青、赤、赤紫、黒の四角と三角の補強紙パネルを組み合わせたものでした。子供達は、パネルの端にあるスリーブにダボを通して補強して、その支柱を角で取り付けることができました。最初は、シアーズカタログを通して、大きな平らな箱に入れて販売されていましたが、イームズ夫妻はこの包装をデザインし直して、すべての部品を丸めて保管できる、よりすっきりとした76センチメートルの六角形の筒を作りました。
The Toyの最初のバージョンは、段ボール箱のように、子供達が中に入るのに十分な大きさのスペースを作ることができました。1952年に発売されたThe Little Toyは、建築モデルのようなサイズで、子供達はこのドールハウスを徹底的に分析することができました。(イームズオフィスはその後、レベル社のために近代的なモデルハウスの試作品を作りましたが、製造までこぎつけることはありませんでした。)The Little Toyの箱は、カラフルな四角の格子と単語が特徴的で、イームズハウスの正面とESUのパネルのアレンジに似ており、これらの様々なスケールの製品はすべて、数年の間にイームズオフィスにより開発されました。
チャールズ・イームズはかつてイームズオフィスでひと仕事終えた時に「私たちは連鎖反応で仕事をしているのです。一つのテーマが次へとつながっているのです」と述べています。ESUとThe Toyがイームズオフィスが生み出した息の長いモジュール式の紙ベースのおもちゃであるHouse of Cardsにつながっています。
House of Cardsは元々、側面に2つ、端に1つずつスロットが付いた54枚のカード2組から構成されていました。The ToyおよびLittle Toy同様に、できるだけ簡単に空間を作るというのがアイデアでした。切り込みにより、ダボやワイヤーフレームそして道具を使うことなく、よりすっきりと連結することが可能になりました。こうした住宅やESUでは、テクスチャーと色合いを様々に組み合わせられました。カードも、最初の1組に異なるパターンの54枚のカードを選び、2組目では異なる写真のカードを選びます。
Tigrettのカタログでは3種類のすべてのイームズ商品について、「このおもちゃシリーズは、サイズも組み立て方もすべてが異なり、それぞれが優れている上に、実際に色と空間を体感することができるため、保護者や教育関係者から称賛されています」と記述されています。House of Cardsの絵柄により、組み立てられた作品は、まるでマルチスクリーンのメディアイベントを見ているようになります。そしてこれはイームズ夫妻が探求していた別のアイデアでした。
「Toccata for Toy Trains」のナレーションで、チャールズはこう言っています。「懐かしい昔のおもちゃでは、使われている素材について意識する必要はありません。木は木ですし、ブリキはブリキ、そして鋳物はみごとに鋳物です」そして夫妻自身のおもちゃに関して、段ボールは段ボールであると加えたかったのではないでしょうか。また強度や低コスト、少しの切断や切り込みにも耐えうる理想的な建物の素材としての質についても話しています。
カートンシティの段ボール、The Toy、Houses of Cardsは、子供達にとって初めて組み立てする機会となりました。実際、チャールズ&レイ・イームズは、子供たちが(少なくとも大人よりも)住宅、ショールーム、家具についてより真剣に構造および素材の探求に向かわせるきっかけを作りました。また試作品と動物マスクの素材である段ボールは、デザイナーが作った包装でなくても家にあるものです。その可能性に気づいて、チャールズとレイは、小さくて想像力豊かな世界、箱の中に街を作ったのです。