Kindah Khalidyの
スタジオを訪ねて

カリフォルニアにあるKindah Khalidyのスタジオでは、絵画やテキスタイル、さらにはケーキまで、さまざまな作品が力強く融合し遊び心あふれる空間を生み出している。


作者:William Bostwick

撮影者:Mariko Reed

発行済み:2024年4月19日

コズムチェアとパスポートテーブルの横に立ち、スタジオで絵を描くアーティスト、キンダ・カリディさん。

Kindah Khalidyは、カリフォルニア州バークレーにある蒸留所の依頼で瓶ラベルをデザインしたことをきっかけに、そこに隣接するスタジオに引っ越してきました。彼女の自宅スタジオは狭く、大きな作品の制作に向いた場所を探していました。そんな時、蒸留所に空いている事務所があると知りました。何もない砂利の広場に面した白塗りの壁はミニマリストを象徴しているようで、陽気でカラフルでさまざまな質感をもつKhalidyの作品とは対照的です。それこそが彼女が気に入った点です。 

「作品を移動させられる場所か、家から作品を持って来て作業できる場所を探していました。」

自身が描いた一枚の絵の前に立つキンダ・カリディ。米国カリフォルニア州バークレーのスタジオで。
キンダ・カリディの画材を一杯に載せたOE1トロリー。

カリフォルニアで育ち、サンフランシスコのCCAに通った後イーストベイに移り住んだKhalidy(左)画材を運ぶアシスタントとして大活躍のOEIトロリー(右)

Khalidyの作品の多くは幅1.5~2メートルほどあり、何度も視点を変えながら制作するため時間がかかります。時には座って作品を眺めたり、キャンバス自体を別の壁に移して制作したりすることもあります。1つの作品を手掛ける数か月(時には数年)の間に、次々に別の作品が生まれ、育まれます。「どの作品にもたくさんのイメージがあり、どんな仕上がりにもなりえます」と彼女は語ります。そのため、始めるのは簡単ですが終わらせるタイミングが難しいのです。「簡単ではないけれど、もう手放しても大丈夫と感じる瞬間に気づくことが大切です。とにかく続けることです。」

Khalidyは、熟考したり辛抱強く耐えたりするという貴重な秘訣には従いません。実際、そのような計算された枠を取り払うことこそがKhalidyの仕事です。「事前に計画しないようにしています」と、彼女は話します。「もっとうまく描けるように、特に線をうまく描けるようになりたいんです。スケッチをしなくてすむように。スケッチに反対しているわけではなく、ただスケッチなしで描くことにチャレンジするのが好きなんです。」

テーブルを前にゼフチェアに座る、スタジオで絵を描くアーティスト、キンダ・カリディさん。イームズの黄色いシェルチェア、2脚と共に。

明るく広々としたスタジオの壁にはキャンバスが並び、彼女が模様を描いたドレスが梁に掛けられ、プラスチックの真空パックに入ったままの布が作業台に山積みにされています。「色と余白のバランス。ぎこちなさや不自然さ、平らで安心感のある形」—このKhalidyの美学はファッションにぴったりで、そのエネルギーが子ども服やスケボーシューズなどの商品を盛り上げています。Khalidyは、Seamripperという独自のテキスタイルブランドを持っており、Vansなどの企業とコラボしています。「作品に動きが生まれるのを見ると嬉しくなります。」彼女はそう言い、ファッションは自分自身を表現する手段であると付け加えました。「人は着ている服と会話し、その服が周りの人たちと会話しています。」

ですが商品づくりは単純ではなく、マネキンにキャンバスを羽織らせるわけにはいきません。「物に描くときは制限があります。当然、絵の具の滴り具合や模様がどのように襟や袖に表れるかに気を配りながら、形に合わせて調整しなければなりません。ですが商品である以上、いつまでも美しく再現されるように仕上げたいと思っています。難しいけれど、狙いすぎるとその魅力が失われかねません。」彼女はそう話します。

「どの作品にも
たくさんのイメージがあり、
どんな仕上がりにもなりえます」

あるベルベット生地の制作では、紙のコラージュから始まり、魚のうろこに見えるように何層にも塗り重ね、それを写真に撮るという作業を繰り返しました。別の制作については「10~15点の作品からカタチを選び、それをまた自分で描きました。たとえば、この金色のカタチはここから来たものです」と、布とその反対側の壁に立てかけてある自身の作品の1つを指して教えてくれました。「何が商品になり、何がアート作品になるか、また何を布の模様に使うかは、自分の中でルールを決めています。大切に取っておきたいものもあるからです。模様を考える上でどのカタチを加えるかを決めるとき、自分の作品に問いかけています。とても特別なカタチもあって、そういったカタチは布の模様には使わないと決めています。キャンバスにしか描かないと決めているカタチもあるんです。」

テーブルの上に置かれた、キンダ・カリディさんがスタジオで部分的に描いたネルソンバブルランプ。

Kindah Khalidyが制作中の、世界にひとつだけのNelson Bubbleランプ

TEST FOR TERESA

自身のブランド、Seamripperで手描きの模様がプリントされた服を商品化するために自宅スタジオで作業中のKhalidy

最近、Khalidyはギャラリーショーのオープニングに向けてケーキのデコレーションも手掛けています。そこでは、食べられる絵の具やスプレーペイントまで使われています。スタジオのあちこちの棚には、真っ白な発泡体でできたケーキ型が置かれ、色付けされるのを待っています。色とりどりのうず巻きや波線がちりばめられた紙製のランタンも、まるで光るシャーレのように梁からぶら下がっています。 

「紙に絵を描くのが大好きです。それにこれ(Nelson Bubbleペンダント)、とても気に入っています。紙のように見えて、実は人工のクモの巣のように織ったプラスチックです。」Nelson Bbbleペンダントを見ると、絵の具が数滴、半透明のポリマー製シェードのカーブに沿って滴り落ちていました。それもアートの一部なのです。「私はあちこちに偶然と狙いを織り交ぜるのが好きなんです」とKhalidyは語ります。

点滅する、キンダ・カリディさんによって描かれたネルソンバブルランプ。

「人は着ている服と会話し、その服が周りの人たちと会話しています」

Khalidyの賑やかなスタジオは、彼女のキャンバスのようであり、彼女の仕事ぶりにも似ています。自由な表現が生まれる瞬間と、休息という澄んだ息吹とが混ざり合っているのです。はたしてKhalidyとはどんな人物なのでしょう。彼女の作品のように、その時どきでさまざまに変化するのでしょうか?「いいえ、バランスが大切です。私が着ている服を見てください。とてもシンプルでしょ。自分がデザインした生地の服は着ないようにしています。だってやりすぎになるでしょ!」