メタプロジェクト

ロチェスター工科大学の学生とハーマンミラーによる、コラボレーションを強化するデザインの創造。


作者: Mindy Koschmann

アートワーク: Nathaniel Russell

人間の体と鳥の頭部を持つ8人を描くイラスト。

ギリシャ語で「meta(メタ)」という接頭辞は「後に」または「その向こうに」を意味します。英語の「meta」はより深遠な意味を持ち、ある概念から導き出された概念が、元の概念を包括し、拡張することを意味しています。ロチェスター工科大学(RIT)がVignelli Center for Design Studies(ヴィネリ・センター・デザイン研究所)との協力で提供しているインダストリアルデザインの1学期にわたるコース「メタプロジェクト」には、そのどちらの意味も適切です。

「メタプロジェクト」は、プロジェクト課題の実行を通して学生たちがデザインの問題解決面からのアプローチを学ぶ機会を提供しています。ハーマンミラーは今年、このコースで学生たちに「ワークプレイスにおいて、人びととツールまたはテクノロジーとの間のインタラクティブ性を高めるデザインを創造する」というプロジェクト課題を課しました。コースを通して、ハーマンミラーのデザイン開発チームのメンバーであるダニエル・ラッカー、トニー・ロットマン、クリス・ホイト、ゲイリー・スミスが学生たちを指導しました。

「業界パートナーのこのような深い見識がなければ、学生たちのアウトプットはより限られたものとなり、プログラムされすぎたものになってしまうでしょう」と、「メタプロジェクト」の創設者であり、RITのインダストリアルデザイン科教授兼学科長のジョシュ・オーウェンは語ります。「ハーマンミラーは究極に近いパートナーシップのあり方を体現しています。デザイナーたちとの関わりにおいて豊かな経験を持つハーマンミラーは、デザインによるイノベーションに価値を置く教育機関に対して、まさに最適の課題を提供してくれます」。

学期の前半では、学生たちはハーマンミラーによる問題解決と人間を中心としたデザインへのアプローチというレンズを通して、プロダクトデザインの歴史、論理、実践を学びました。その後、オーウェンとハーマンミラーのチームの指導のもと、学生はアイデアの立案から制作までの過程を通してプロダクトを形にしました。

Personal Space Bar by Kat Given. This dual-component workspace offers a standing-height counter and a quiet place to retreat for more focused work (or potentially a nap). A multi-functional, moveable cushion supports a variety of postures and can be used for guest seating away from the desk. Relationship Focus: Human-to-Tools

パーソナルスペースバー:カット・ギヴン作
2つの役割を果たすワークスペースのコンポーネントで、立って使う高さのカウンタースペースと、より集中して仕事をする(または、昼寝もできる)静かな空間とを提供します。動かせる多機能クッションは、さまざまな姿勢をサポートします。デスクから離れた場所のゲストシーティングとしても使えます。関係性のフォーカス:人とツール

Snack Station by Tony Han. Designed as focal point, the tri-tiered Snack Station is a place where people can comfortably gather while sharing refreshments. Relationship Focus: Face-to-Face

スナックステーション:トニー・ハン作
空間のフォーカルポイントとしてデザインされた3段構造のスナックステーションは、働く人が心地良く集い、スナックを楽しむための場所です。関係性のフォーカス:フェイス・トゥ・フェイス

インダストリアルデザイン学科の4年生、アレグザンダー・ベネットはこう語っています。「この課題で心を動かされたのは、これはコラボレーションの機会だということでした。RITに在学していた間、すべてのプロジェクトの背景にはコラボレーションが行われていました。それにインスパイアされて、オブジェクトに「コラボレーション」と言わせてみたいと思ったのです」。

ベネットは、ワークスペースでの創造性を伸ばす自然発生的な相互の交流を促進することに興味を持ちました。そして作ったソリューションは、真っ二つに割れ、2人が快適に腰掛けスクリーンを共有できる、分割するチェアです。非常にインタラクティブなプロセスの結果として生まれたものでした。チェアを快適でしっかりとした構造にするため、ベネットはボール紙で模型を作り、次に木材で実物大の試作品を作成し、さらにCADを使って仕上げをしました。

デザインの成功は、この仕上げのプロセスにありました。「アイデアを出していた時に、ソリューションに落とし、どんな場で使うのが最適なのかをはっきり定義させてくれたのは、ダニエル・ラッカー氏とチームのほかのメンバーの方々でした。チームの皆さんにユースケースの定義で助けていただいたおかげで、すべての問題を解決しようとする代わりに、1つの問題をしっかりと上手く解決することができました」とベネットは語っています。

Social Furniture System by Richard Luo. Seating, storage, and work surface in one, the Social Furniture System enables a casual setting where people can socialize or informally share ideas. The pie-shaped blocks can be stacked or rearranged to suit the needs of the people using the space. Relationship Focus: Face-to-Face

ソーシャルファニチャーシステム:リチャード・ルオ作
シーティング、ストレージ、デスクスペースを1つにしたソーシャルファニチャーシステムは、人びとが交流したりアイデアを共有したりするカジュアルなセッティングを作ります。パイ型のブロックはスペースを使う人のニーズに合わせて積み重ねたりアレンジし直したりすることができます。関係性のフォーカス:フェイス・トゥ・フェイス

Discretion Barrier by Gino Santaguida. The Discretion Barrier solves a problem common in many office environments—disruption by people talking on the phone. The simple design provides enough of a physical and acoustic barrier to offer privacy without isolation. The frame enables an additional layer of privacy with added functionality as a coatrack. Relationship Focus: Digitally Mediated

ディスクレションバリア:ジノ・サンタギダ作
ディスクレションバリアは、電話の話し声という、どこのオフィス環境でもおなじみの問題を解決します。シンプルなデザインで物理的な壁を作って音声を遮り、孤立することなくプライバシーを保ちます。フレームはプライバシーをさらに高めるほか、コートラックとしての機能も追加します。関係性のフォーカス:デジタルな関係

プロジェクト完了後、学生のデザインは技術とパフォーマンス、デザインの完成度、コンセプトの実現、そしてプロジェクト開始当初の課題に対して適切かどうかという観点からハーマンミラーのチームが審査しました。ラッカーによると、ベネットの作品はまさに審査チームが望んでいたものだったと言います。

「関係性の構築と強化という課題において見過ごすことができないのは、デザインが繊細で共感を誘うものでなければならないということです。最優秀デザインも例外ではありませんでした」とラッカー。「テクノロジーの共有は、多くの場合ソフトウェアやデバイスの画面を通して行われます。私たちは、親密であることよりもエクスペリエンスを最大化することが常に理想であると考えがちです。このチェアは、ある意味でそれと対照をなすものです」。 

ベネットのプロジェクトは、次点の7作品とともにハーマンミラーが製造し、RITとニューヨークのデザインウィークで行われるInternational Contemporary Furniture Fair(国際コンテンポラリーファニチャー家具見本市/ICFF)で展示されます。「自分たちのデザインが展示されているのを見るのはICFFが初めてです。 ほとんどシュールともいえるような経験で、自分のデザインを世界の人と共有できるまれな機会でした」とベネットは語ります。

“ベネットは、このクラスの中で、デジタルな関係性を新しい大胆な方法で捉えた数少ない学生の1人でした。彼のアプローチの斬新さは、ワークプレイスで2人の間に、コンピュータを第3者として加え、会話の形を三角形にした点にあります。チェアで知られるハーマンミラーに対して、チェアでチャレンジした、大胆なアプローチでした。”

— メタプロジェクト創設者、RITインダストリアルデザイン科教授兼学科長のジョシュ・オーウェン

Invitation Chair by Alexander Bennett. The Invitation Chair shifts from a comfortable seat for one to a perch for two co-workers viewing a digital device. Relationship Focus: Digitally Mediated

インビテーションチェア:アレキサンダー・ベネット
インビテーションチェアは、1人で快適に座るチェアから、2人の同僚が腰かけてデジタルデバイスを共有するチェアに変身します。関係性のフォーカス:デジタルな関係

「メタプロジェクトのようなコースは、キャリアを築き始めたばかりの頃には体験することのできない深い経験を培うことができる、デザインを学ぶ学生にとって価値ある重要なものです。学科の教師と業界を代表するプロから丁寧な指導を受けながら、独立したデザイナーとして扱われるというのは、ほとんどのデザイナーが経験することのないガイド付きツアーのようなものです」とオーウェンは語ります。

夏にはMicrosoftでインターンをするベネットにとっては、メタプロジェクトへの参加はRITに入学した時からの目標を叶えるものでした。より重要なことに、メタプロジェクトは学生たちにハーマンミラーとヴィネリ・センター・デザイン研究所が最も大切なものと考えているデザインへのアプローチを学ぶ機会を提供しました。「メタプロジェクトは、自動車や靴といった単独の産業に特化したものではありません。どうすれば本当に面白い問題を解決できるのかを発見するためのものです」とベネットは語ります。「ハーマンミラーがプロジェクトに用意してくれた課題は、本当に興味深い問題でした。そして僕の見つけたソリューションは、たまたまチェアだったのです」。